イギリス留学 ワーキングホリデー体験談(アーカイブ)

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ヘッジホッグ、汗と涙のワーホリ物語
「強制送還 ?!」
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「マネジャーは今、取り込んでいるので15分くらい待ってもらえるかしら。」
ここのホテルのサブマネジャーであろうか、体格のいい黒人女性が従業員であるジン
ハーンに伝えに来た。
「今日、良かったらジン(ジンハーンの略名)働いていかない?」
この女性の口ぶりからして、どうもここのレストランは本当に人を欲しがっているよ
うである。これは、良い返事がもらえれそうな雰囲気である。ジンハーンは、
「ごめん。今日は忙しいんだ。」
と、あの女性の頼みを申し訳なさそうに断っていた。だが、おそらくこれは彼の作っ
た話であろう。週末、朝、夜どちらも厳しいシフトで働いてヘトヘトになっている
と、ここに来る前のバスの中で言っていたからだ。本人は、昨年まで、よくお金が欲
しいと言っていた。来月、ユーレールパスを買って2ヶ月近くヨーロッパを周る計画
があるためだ。しかし、ここの仕事に出会って以来、完璧に生活ぶりが変わった。仕
事は楽で自給も良く、チップも別に収入となるので彼には、そのセリフをぼやく必要
が無くなったのであろう。

女性が立ち去ると、僕らはバーカウンター近くの丸テーブルに座った。とても雰囲気
のいいレストランである。ジンハーンはキッチン内に入り、僕らの為にコップに入っ
たなみなみのコーラを持って来てくれた。僕らはそのコーラに口をつけた。面接のた
め緊張をしているのだろうか。キョンシはここの席についてからひと言もしゃっべて
いない。彼にとっては、初めての海外でのアルバイトになる。だからだろうか?

僕は、お店のこと、仕事内容等いろいろと先輩であるジンハーンに尋ねることにし
た。ジンハーンのここでの担当は、キッチンでお客のメニューした料理を作ること、
皿洗い、それだけだと以前より聞いていたが。
「ジンハーン、君の仕事の中にキッチン以外にやる事はないのかい?」
「ないない。ほんとに楽なんだからここの仕事は。心配するなってヒロ。ヒロは料理
できるだろ、僕みたいに。」
ジンハーンは母国韓国で兵役時代、ジープ運転兼コックとして担当していた経験があ
るという。確かに、以前、彼に韓国風カレーをご馳走になった時に見せた玉ねぎを切
る早さは、ただ者ではなかった。

15分が経過した。依然としてマネージャーが現れる形跡がみられない。痺れを切ら
したジンハーンがウェイトレスの女の子にマネージャーについて尋ねたが、待てども
待てどもマネージャーは僕らの前に姿を現さなかった。

さらに15分が過ぎた。一番初めに現れた黒人女性がやってきて、僕らに通りに面し
た会議室に待っているようにと通達があった。僕らは2杯目のコーラを持って会議室
の席に着くと、そこに現れたのは、やはり体の大きな黒人女性であった。
「今日、マナージャーが忙しいので変わりに私が面接して、後日マネージャーから合
否の連絡してもらうことになっていますので。では、名前、住所、国籍....あと、パ
スポートを見せてもらって連絡先を教えてもらうわ。その後にいくつか質問するか
ら。」
気持ち早口であったが、とても感じの良い人である。そして質問が始まったが、
「どれくらい滞在しているか?学生か?住まいはどのへんか?週に何日働く事が出来
るか、また時間帯はいつが可能か?キッチンとウェイターどっちで働きたいか?銀行
口座を持っているか?」
日本でのアルバイトで聞かれる質問そのものであった。ちなみに、僕は朝の時間帯、
キョンシは夜の時間帯を選択したため、朝、夜両方人手を探していた彼女は大喜びの
様子を見せた。僕らは、その様子をみて同じく手ごたえを感じた。いつもの通り、結
果は明日知らせます、ということであった。

しかし。電話はかかってくることは無かった。別にジンハーンが悪いわけではない
が、
「すまん、2人とも。今週末、仕事が入っているからマネージャーに確認してみる
よ。」
と、自分が紹介しておいてすまないという表情を浮かべて話した。僕は、この時点で
帰ってくる返事が「ノー」である予想はついていたのだが。

さて、その週末、ジンハーンは僕の部屋に来て今回の事件の内容を洗いざらい話して
くれた。
「ヒロ。とても悪いニュースだが、不採用だったよ。本当にすまない、僕が誘ってお
きながら。でも、問題はあそこで働いている労働時間が法に触れてしまったんだ。」

「法に触れたって?」
「うん。学生の労働時間知ってるでしょ、週20時間。しかし、うちのマネージャー
はそれ以上働かせていてね、どうもホームオフィスの監視下に置かれてしまったそう
なんだ。それでマネージャーは、今働いている学生をみんな辞めさせて、今後雇うの
も学生は辞める事にしたらしいんだよ。」
「じゃぁ、今回はそれで僕ら駄目だったの?」
「まぁ、そういうことらしい......。」
ジンハーンは、やや辛そうに話した。けれども、よくよく考えれば僕のビザは、学生
ビザではなくワーキングホリデーだし何も労働時間を週20にする心配もいらない。
なのに....。少し納得はいかない点もあったが、これ以上ジンハーンに責めるのもと
思い、また新しい仕事探しを地道にする事にした。

同じくして、うちの学校にもホームオフィスの監視下に入れられ、一人の犠牲者が現
れる事件が起きた。彼は、アフリカのソマリアから来た生徒で労働時間が法律に触れ
てしまったという。そして、そのまま荷物を持たされ、母国へ強制送還されたのだっ
た。その事件後、校長のボイドは直ぐに休憩時間にみんなを集め、くれぐれも週20
時間の労働を守るように伝えた。そして、彼らは学生全員のファイルを調べるので、
みんなが学生である以上学校をサボることなく必ず出席するようにと口を酸っぱくす
るほど話した。強制送還になる理由は、労働時間オーバーのほかに、学生で入国して
いながら学校に行っていない
生徒にも該当するのである。

最後にボイドは、悲しそうに言った。
「君たちが、仕事を法律上で働いて学費と食費、生活費を払っていけないのは分かっ
ている。しかし、これはこの国のルールである。違反すれば、出国しなければいけな
い。せっかく、英語を勉強しにきているのに。今回、無力の私は、一人の生徒を救え
る事が出来なかった。今後も、君たちへの彼らの目は厳しくなる。しかし、決して逆
らわないでくれ。もし、困っているならいつでも相談しにくればいい。」
ボイドの悲痛の叫びが僕の胸を打った。そして、多くの生徒たちにも届いたであろ
う。但し、現実問題、それはこの国で生きていくには厳しいことであるが。

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